ブックス・ビューティフル I・II
荒俣宏 著
ちくま文庫
I 1300円(税込み) II 1200円(税込み)
マルチメディアとは、文章(テキスト)や、図版、動画、音声などを同次元で扱えるもののことだという。しかし、現在巷にあふれているマルチメディア的なものは、基本的に、文章なら文章、図版なら図版といった具合に、何か一つの表現方法が中心になり、それを他の表現が補助するというスタイルのものが多い。それでは、「絵で分かるマルチメディア」とかいう本と何等変わりはないように見えてもしょうがないことだ。
この西洋のイラストレーションを中心に、挿絵本史を総まとめした「ブックス・ビューティフル」という本に、次のような一節がある。「挿絵本の歴史というのは、本文の著者とその読者の両方をおどろかすような『図説』や図像化を、一介の絵職人がどのようにして達成するか、そういう挑戦の歴史だったわけです。」これは、そのまま、現在のマルチメディアやホームページデザインでも起こりうる話ではないだろうか。コンテンツをどのように見せていくか、ということを、図版とハイパーテキストで実現する試み、それは、かつての挿絵師や、執筆から挿絵制作、ページ印刷までを一人でこなしていたウィリアム・ブレークなどの絵師が、既に200年以上も前から行っていた試みと変わらない。
ならば、それを学んでしまえば良いわけで、そういう場合に、この本は非常に役に立つ。まず、挿絵というものの性質についての話から始まり、歴史を追って、本を、ページを、内容を『光輝かせる』ことに成功した挿絵の数々が、カラー図版で収録されているのだ。
ルネサンス期から行われているという議論、「挿絵は、文章の持つイメージを矮小化するからいらない」という意見に戦いを挑んだ挿絵師たち。現在、そんな議論すら忘れられて、とにかくグラフィカルであれば良いとする風潮に乗って、無責任にイメージを簡略化し、表面上の分かりやすさへと向かうマルチメディアは、一度、原点に立ち返る必要がある。