宮部みゆき「クロスファイア(上・下)」
光文社 各819円

スケールの小さいスティーブン・キングこと宮部みゆきの力作「クロスファイア」は、抑制されたコンテンツの可能性を示す。

 宮部みゆきの本を読むと、いつも、「この人って、スケールが小さいスティーブン・キングだなあ」と思う。これは、もちろん誉め言葉である。この「クロスファイア」にしても、意志で何もないところに火を付けることが出来る女性が主人公(火を付けるどころか、人間を完全に焼き殺すことさえ出来る)という、キングの「ファイアスターター」を思わせる設定で、物語を大きくしようと思えば、多分、いくらでも大袈裟な話になりうるネタだ。実際、「ファイアスターター」は、国の秘密組織や、火を付ける少女の父親の話など、物語が大きく膨れ上がっている。それはそれで面白いのだけれど、「クロスファイア」の、主人公が一人の女性であり、その部分のリアルさを決して壊さない姿勢からくる、濃密な面白さにはかなわないように思うのだ。スケールが小さいからこそ、そこで描かれるド
ラマの輪郭がくっきりと浮かび上がる。あえて、舞台のスケールを小さくすることで、内包する物語の大きさを予感させつつ、物語を、きっちりコンパクトにまとめる。その技術の素晴らしさ。
 何かに付け大仰にしたがるデジタルコンテンツの行く末を考えるとき、宮部みゆきの、この資質と方向性は、エンタテインメントの一つの指針となるはずだ。