永田生慈監修 「北斎絵事典」
東京書籍 2300円

著作権の落とし穴。浮世絵データは版権フリーのクリップアート集だ!(いいのか、それで?)

 ホームページを作っていて、面倒なのが画像の作成。写真ならいいけど、ページの装飾的な画像は、絵が下手な私には、どうしていいかさえ分からない。文字の組み方とか、テーブルを使ってデザインでごまかして見せているものの、やはり、ちょっとしたカットが欲しくなることもある。そういう人のためにあるのが、著作権フリーのクリップアート集なのだけれど、これがまた、書いた人の個性が出過ぎていて、自分のページで使うのははばかられたりする。そうやって選んでいくと、使える画像はほんのわずかで、しかも、そういう悩みを持つ人は多いとみえて、どこのページにも似たようなイラストが載ってたりしてゲンナリする。
 そんな状況の中で、本屋に立ち寄って、いつものように画集のコーナーなんか見ていたら、葛飾北斎の新しい画集が出ていた。手に取ってみると「北斎絵事典」というタイトル。監修は永田生慈という、葛飾北斎を語らせたら日本一の人物。帯には、今や江戸の権威でもある杉浦日向子の推薦文。まあ、いつもの葛飾北斎の本にありがちの面子である。中を見ると、一ページに4〜5点、北斎の絵手本や絵草紙から抜き出した絵が印刷されている。北斎マニアの私にとっては、どれも、どこかで見たことがあるものばかりだ。「動植物編」ということで、牛とか馬とか龍とか河童とか獅子とか、芍薬とか仙人掌(サボテン)とか黒百合なんかの絵が、ひたすら並んでいる。
 いったい、この本は何なんだ、と思いつつも、北斎ものだから一応買っておこうと思い、裏表紙で値段を見たら、帯の裏が目に入った。「自由に使えるイラスト約1000点収録」。そういうことかと思いつつ、いくら版権が無くて、著作権フリー状態とはいえ、葛飾北斎をクリップアート集扱いするんかい!、と思わず突っ込んでしまった。
 いや、確かに、そのアイディアは悪くない、むしろ、いい。北斎の絵は、その技術の高さゆえに臭みが無いし、白黒二色刷りの版画だから、スキャナで読み取るのも簡単。この動植物編だけでも、ありとあらゆる種類の動物と草花、それに文様のデザインが含まれているから、ホームページはもちろん、年賀状とかチラシにも十分使える。「人物編」も出るそうだし、そうなると、さらに利用の幅は広がる。日本語だけでなく、英語による解説文も付いてるあたり、インターネットを意識していることがミエミエだし。
 何だか複雑な気分になりつつ、ということは、家にある膨大な浮世絵の資料は、全部クリップアート集なんだな、とほくそ笑む私だった。