石井隆「黒の天使(I・II)」
太田出版
デジタルだアナログだと言う前に、石井隆を読んで原点に戻ろう
石井隆のマンガには、70年代末の匂いが濃厚に染み付いている。コンピュータ・カルチャーにも、同じ時代の匂いがある。ところが、この両者が結びつくわけではない、というのが面白い。この差が、日本とアメリカの70年代の違いなのだろう。同じサブカルチャーであり、同じ時代の匂いを共有して、でも、日本にはフラワームーブメントなんて無かったという事実を、石井隆のマンガは強烈に照らし出す。そして、現在のデジタルコンテンツの低迷と面白く無さ加減は、この差に気が付かないから。それは、日本的とかアメリカ的とか、そういうことではなく、たまたま、根っこが違っていたという差違。
既に時代は流れ、かつて熱狂したこの物語を読んでも、ツマンナイんじゃないかという予想を裏切って、この作品はやっぱり面白い。女殺し屋の群像劇の中にほとばしる冷たい暴力は、濃厚な時代の匂いを越えて突き刺さるパワーがある。そこにはラブ&ピースなんて主張は入る透き間も無い。こういう作品を、エロ劇画として平気でほっといた罰は当たると思うよ。