「ナムアミダブツ」
立川談志著 光文社 933円(税別)

談志師匠の話術を盗めれば、ホームページでエッセイが書ける

 エッセイというのは、不思議な表現形態だ。「枕草子」とか「徒然草」の昔からあるのだから、それなりに歴史もあるし、面白いエッセイは読んでいて楽しいし、それが悪いとは言わない。例えば、この立川談志の「ナムアミダブツ」では、あの落語立川流家元であり、今世紀最後の名人立川談志師匠が、相も変わらず、ブツブツ世間に文句を行ったり、ガンのことを語ったり、政治に口を出したりしているのだけれど、その内容はともかく(面白いんだけど)、どんなネタでも、きちんと洒落にしてみせるし、怒っているときは、怒っているという感情を見事に伝えてくれるしで、読んでいて気持ちがいい。これは、話術の妙だ。
 視点なんて、それがどれほど独創的であっても、エッセイとして扱える範囲内なら、誰かが、「俺もそう思ってた」というようなものだ。あまり突飛な視点なら小説にした方が効率がいいし。だから、エッセイの魅力のほとんどは、視点よりも、その語り口、文章のテクニックにかかっている。日記との最大の違いはそこだし、テクニックが無いなら、日記のようなものを公開しても人々が興味を持ってくれる有名人でないと意味はない。自分を語りたい人が書くエッセイがつまらないのはそういう訳だ。