「ねらわれた学園」
眉村卓著 角川スニーカー文庫 460円(税別)
長い間、絶版同様の状態になっていた学園SFの名作が、ようやく復刊。児童向き小説の面白さを再発見しよう
何度も映像化されているにも関わらず、こんな名作が、長い間、本屋で買うことができなかったというのは、凄く不思議なことだ(先月紹介した「電子書店パピレス」でテキストファイルを購入することはできたけど)。NHKの「少年ドラマシリーズ」で、薬師丸ひろ子の映画で、村田和美主演の深夜のテレビドラマで、世代をまたいで、少年少女(大人もだけど)の心を熱くした、学園SFの古典にして、原点というか、ネタ元というか(この物語の設定は、どれだけ多くのバリエーションを生んだことか)、傑作なのに、その原作は、意外と忘れ去られていたりするのだ。子供の頃に読んで盛り上がったことだってあったはずだろうに、そんなことは忘れている大人が沢山いるんだな、と思う。
例えば、この原作では、超能力を使う美貌の生徒会長高見沢みちるに対して、主人公の関耕児も、そのガールフレンドの楠本和美も、素手で、超能力なんて使わずに戦う。武器は、クラスの結束と、怯まない勇気。そう、薬師丸ひろ子の映画なんかでお馴染みの超能力合戦なんて、原作では起こらない。覚えてた?
また、高見沢みちるによる学園支配の方法も、凄く巧妙で、やりようによっては、超能力なんて使わなくても、学校の校則によっては、現実に実行可能なものなのだ。嘘だと思ったら、読んでみてね。関耕児たちのクラス全員を学校から干すやり口なんて見事なものだ。
こういう面白いだけの、空想的な物語は、何故か子供の読み物として忘れ去られる傾向がある。本は、それが小説であろうと、そこに盛り込まれた情報や、何か考えさせてくれるようなテーマ、自分の悩みに答えを与えてくれるようなセリフ、なんかが無いといけないというような傾向さえある。それは、インターネットの利用のされかたを見ているとよく分かる。実用的な情報とコミュニケーション。それ以外にも、楽しみはいくらでもあるのに。そうか、別に楽しまなくていいのかもね。