書名:仕掛人・藤枝梅庵
「殺しの四人」340円
「梅庵蟻地獄」380円
「梅庵最合傘」380円
「梅庵針供養」380円
「梅庵乱れ雲」420円
「梅庵影法師」380円
「梅庵冬時雨」400円
以上全7冊
著者:池波正太郎
講談社文庫

 この世に生きていたら毒になるやつを消すのが仕事。極悪人専門の殺し屋稼業、仕掛人。ご存じ故池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅庵」シリーズは、ストーリーを「殺す」ということに絞った日本のハードボイルド史上有数の名作だ。シリーズ第一作「殺しの四人」の最初の話「おんなごろし」で、梅庵は、自らの妹を手に掛ける。「殺す」ということが、どいうことなのか、が、いきなり提示されて、このシリーズが始まるのだ。おまけに、女の業の深さがえぐられる。怖いねー。
 冬を思わせる、冴えた冷たい描写と、殺し屋でありながら、人の命を救う鍼医を表看板にする梅安のジレンマ。強固な守りを抜けて、人知れず相手を殺すための技術と謀略。相棒彦三郎とのこころの交流、これら矛盾した様々な要素が、ただ「殺す」という一点で繋がり、「殺す」描写こそが売り物にさえなる作者のジレンマをも内包していく。そりゃ、冷たい感触の小説になるのは当たり前だな。立川談志が言う「業の肯定」の世界だ。あらゆる矛盾をひっくるめて「人間」だというような世界。芯にあるのが「殺し」だとしてもね。
 物語は後半、健康な一本気の若者小杉十五郎が、関西の元締めによって裏稼業に手を染めさせられたことに端を発し、裏稼業同士の争いへと発展していく。それはそれで面白いし、仕掛人が仕掛人を殺す、その手順を考えているシーンなんかゾクゾクするけど、ここには、もう矛盾は無い。チャンバラ小説だ。
 「殺す」という行為を通してのみ、物語を構築するのは、やはり作者もつらかったのだと思う。梅庵がちょくちょく「足を洗おう」とするのと重なる。「殺し」は現実よりも物語のなかでこそ重いのかもしれない。