CD-ROMのレビューという仕事は、実に面倒なものだ。CD-ROMを見て、それがゲームならば最後までクリアし、データベースならば、どの程度までのデータが収録されているのかをチェックし、画面写真を撮り、作られた意図を読み、決められた字数と、決められた期限(これが一週間あれば御の字というキツいスケジュール)で原稿を仕上げて、さらに画面写真のキャプションを書き、場合によっては、製品データ(定価、問い合わせ先、動作環境など)を書いて、もらえるギャラは、ページいくらの原稿料のみ。さらに、読者の要望か、編集部の意向か、営業との兼ね合いかは知らないが、貶してはいけない、どんな作品でも褒めなければならない、主観は要らない、面白い原稿より詳しい紹介を書け、といった指令が飛び、「評論」と呼べるような原稿は、ほとんど日の目を見ることはない。時には、ほんの少し作品に文句を付けただけで怒り出すメーカーさえもあるという、「批評」不在の状況だ。
 よって、レビューも自然、当たり障りの無いものになり、文章力も読解力も不要の原稿が雑誌を賑わすことになった。それじゃ、ライター側としては、どんどん当たり障りの無い原稿を文字数別に書いて、それを編集者に売る、というシステムを作ってしまってもいいんじゃないか?という会話が、納富と吉田メグミの間で交わされ、そこから冗談で思いついたのが、このCD-ROM評論家協会である。
 ついでに、図版なんかも皆で共有して、ゲームの攻略法なんかも共有して、誰がどのCD-ROMを持ってるか、とか、どこの広報は優しいか、とか、どこはサンプル版を送ってくれないか、とか、どの編集者は有能か、とか、そういった情報を一まとめにしておけば、皆が便利で、原稿を書く労力も最小限に押さえられるだろう、ということで、とにかく言ったもん勝ちで、さっさと協会を作ってしまうことにした。目指すは業界の圧力団体である。デジタローグの江並氏は、この話のサワリを聞いただけで「怖い」と叫んだ。流石は商売の勘に優れた氏だけのことはある。この団体が、とんでもなく危険なことを考えている、ということを即座に見抜いたのである。
 しかし、基本は冗談である。ただ、冗談は本気でやらなけれなツマラナイ、というのは常識なので、誰かの目に、それが本気に映ったとしても、それはしょうがないことなのである。

 ついでに、マルチメディア・グランプリなんてのも開催されているけれど、そこの審査員がどれだけCD-ROMを見ているというのだろう、という疑問と、俺たちは、相当見てるぞ、という自信の元、CD-ROM評論家協会賞、というのも設立することにした。年明けに、どこかのCD-ROMメーカーは、いきなり数人の男女に乱入され、いきなり表彰式を受けることになるだろう。覚悟しておいて欲しい。ほとんどいやがらせのような賞だが、日本一権威はある。調子に乗って、CD-ROM評論家協会推薦図書、とか、CD-ROM評論家協会推薦CDとか、CD-ROM評論家協会推薦便所とか、色んなものを推薦しまくって遊ぼう、という計画もある。

 基本は個人の活動であることは、当たり前の冗談集団。会員資格はただ一つ、人前で、または誌面で、「CD-ROM評論家協会員だ」と名乗ること。そうやって組織は、あるような無いような、でも何処かに確かに存在するものになる。「CD-ROM」という名称も、ほとんどどうでもいいのだけれど、CD-ROMというジャンルに「評論」が存在しない以上、この名前にはそれなりに意味があるかも知れない。「マルチメディア」とか、「デジタルコンテンツ」なんてジャンルは、「評論」と「展望」だけがあって、中身は無い。ならば「商品」だけがあって「評論」がない「CD-ROM」の方が、まだしも救われているのではないだろうか。そんで「評論」が出てくれば、オナニーにイボ付き金棒だ。相当奥は深いし、入り口も広い。私など、CD-ROMレビューを書かせたら世界でも五本の指が入るとまで言われた、けつの穴のデカイ男だ。

 ともあれ、CD-ROM評論家協会は、存在を始めた。ついでに同名のバンドも結成された。CD-ROM評論家協会主催のパーティー、というのが近い将来開かれると思うが、それはただのアマチュアバンドのライヴかもしれないので、注意が必要だ。

 では、これにて失礼。
 あとは、会員になったり、ならなかったりして欲しい。
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