RenderOrgan
販売元:東芝EMI
定価:5800円(税別)
動作環境: HYBRID仕様
初めて、パイプオルガンを見たとき、その巨大さと、それが全て音を奏でるということに捧げられている大きさだと知って、本当に驚いたものだ。それはもう、楽器と言うより、壁というか、一つの建造物だと思った。しかし、それはあくまでも楽器なのである。ピアノの内部を見た時も、結構驚いた。ピアノの弦が描く線は、やけに美しく、でも、それを構成しているのが、強靭なワイヤーであることも凄いと思った。この「Render Organ」は、かつてパイプオルガンを見て驚いた記憶を甦らせてくれた。音楽によって世界を浄化するという目的で、遠い過去に作られた飛行演奏機械レンダーオーガン。飛行しながら地上から音を集め、それらの音素を使ってメロディーを作成し演奏する巨大な楽器を、再び甦らせるのが、プレイヤーの役割だ。
巨大な筒状になったレンダーオーガンの内部は、全部で三層に分かれている。そのそれぞれが、様々な楽器の内部のメタファーになっている。内部にパイプオルガン風の楽器も置いてあるのだけれど、それ以前に、レンダーオーガン自体が巨大な楽器となるようにデザインされているのだ。これって、結構感動する。美しい音を出す、という機能は、別に複雑であればいいというものではないが、巨大な楽器が奏でる繊細な音の魅力というのは確かにある。それは、音というのが、空気を伝わっていくものなのだからだろう。そのせいか、レンダーオーガンの内部は、中央部にある機械以外は、ひたすら空間が広がる構造になっている。
五つのステップを完了すれば、レンダーオーガンは修復される。それぞれのステップも、まるで楽器のメインテナンスのようだ。最初は、傾いた機体を水平に戻さなければならないのだが、その際に使う姿勢制御チューブなどがある、いわば動力室とでも言える第三層を見ても、まるで、油圧式のオルガンの内部のようだ。そこで、壊れたチューブを探して、その対象方向にあるチューブの機能を停止させることでバランスを取るという発想も、完全に楽器のものだ。楽器だと、こういうことするとキーが変わるけどね。演奏が始まると、第二層に浮かんでいる音素(地上から集めた音の構成物)が部屋中を回転して音楽を奏でる。その感じも、共鳴箱の中で音が増幅されていく様子のようで、音楽以上に音を感じさせてくれる。他にも、扉の枠や、床の模様などにも、管楽器風のパイプなどが散りばめられていて、楽器を建造物にして、なおかつ空を飛ばせようという、このCD-ROMの基本コンセプトが、見事にデザイン化されていると思う。このあたりが、建築家卒の新進クリエーター島田敬介の味になっていくのだろう。
岸利至による音楽も、電子音楽をうまくバロックに調和させて、宗教的な感じを漂わせつつ、決して明るさを失わない。グラフィックの精緻でありながら、どこかアメコミを思わせる男の子っぽい元気の良さとうまく合致して、楽器をいじる楽しさのようなものを感じさせてくれる。
用意された全てのフレーズを聴くには、同じステップを16回繰り返さなければならないが、ピアノの調律士になったような気分で、根気よく楽器を修復していく感じを持たせてくれる。ゲームとしては、面白くはないかも知れないが、楽器が好きな人なら、この感じは分かってもらえるんじゃないかな。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.03)
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