ファンタズム完全日本語版


 販売元:パイオニアLDC
  定価:11800円(税別)
動作環境:Mac, Win3.1, Win95



 小さな島に建つ壮麗な館。そこはかつて、一大マジックショーが行われた劇場であり、その魔術師が住む家だった。それから何十年も、その館に住む者は無かった。その館を購入したのが、作家である妻と、カメラマンの夫の若い夫婦。引っ越しが終わった最初の夜、妻エイドリアンは椅子に縛り付けられ、殺される夢を見る。しかし、そこは若い新婚夫婦。すぐに立ち直る。新生活を始めるにあたって、夫は、二階にある部屋の一つを暗室に改造する作業にいそしみ、妻は、その巨大な館を探索することにした。館を歩き回っていると、この館には色々と奇妙な物が多いことに気が付く。鍵がかかったまま開かない扉、様々な不思議な道具、ベビーベッドの上に浮かぶ妙な気体、突如鳴り始める音楽。不動産屋に行き、残りの鍵を受け取って、扉を開けてみると、そこは書斎。その本棚には、悪魔に関する本が並んでいた。そこで見つけた雑誌を見ると、この館で行われていたショーは、それは不思議で怖ろしく、素晴らしいものだったことが分かる。書斎をよく調べてみると、その先には隠し部屋のようなものまであることが分かった。エイドリアンは、レンガで閉ざされた部分を丹念に崩して、その部屋へ入る。そこは祭壇のような場所だった。箱が置いてあり、その上に大きな本が乗っている。エイドリアンは、その本を手に取り、中を読む。それは、この館に住んでいた魔術師の家系図だった。本を読んでいると、カチリと音がする。箱の掛け金が勝手に外れて床に落ちたのだ。不審に思って近づくと、いきなり箱の中から何かが飛び出した。驚くエイドリアン。階上からは、何かがぶつかる音と、夫の叫び声が聞こえる。慌てて夫の元に向かうエイドリアン。それが、全ての始まりだった。
 というふうに続く、エイドリアンの恐怖の七日間を綴った、正調ゴシックホラー・ストーリーが、この「ファンタズム」だ。妖しい館、黒魔術、過去の妄執、甦る悪霊、今時珍しいほどの古風な設定に彩られた物語は、流行のサイコスリラーやシリアルキラー物に比べると、ちょっと笑ってしまうような話にも見える。しかし、こういう古典的な幽霊屋敷ものは、あの名作「シャイニング」(これは実はゴシックホラーのパターンを踏襲しながらモダンホラーに仕立てた名作なんだけど)を始め、古くはシャーリー・ジャクソンの「山荘綺談」やリチャード・マシスンの「地獄の家」、変わり種では綾辻行人の「霧越邸殺人事件」に至るまで、ゴシックな道具立てがあってこそ生きる魅力的なジャンルとして、現在でも充分に面白い。やっぱ、そのへんのマンションの一室で起こる怪異というのもそれなりに怖いけど、妖しく重厚な洋館で起こる不気味な出来事の方が、お話としても盛り上がるし、ロマンがあるじゃない。
 そして、この「ファンタズム」は、ロマンもあるけど、それ以上に、ホント怖い。スプラッターなシーンも怖いし、細かい演出も怖い。モダンホラー的に謎をそのまま放っておくのではなく、きちんと、ラストには全ての謎が解きあかされて、しかも怪物までちゃんと登場させるという潔さも美しく、怖い。このへんは、映画「エイリアン」などにも通じる見せ物小屋的な面白さなのだけれど、最近、こういう風に、きちんと怪物を登場させる物語が少なくなっているだけに、より、こういう古典的なホラーが魅力的に見える。
 CD-ROM7枚組という超大作だが、話にダレ場がなく、過去の悲劇と現在の状況をシンクロさせながら描いていく緊迫感と、徐々に解きあかされていく謎。館では次々と奇怪な事件が起こるし、夫はどんどんおかしくなっていくしで、始めたら最後、終わるまでやめられない、といった感じで、ぐいぐいと物語を引っ張っていく。しかも、主人公エイドリアンの行動を決めるのはプレイヤーなのだが、その操作する部分とドラマの部分がうまく繋がっていて、自然にストーリーに入り込めるようになっているから、怖さは実際の物語以上に感じられる。単にゲームを複雑にするためだけの仕掛けや、ムダに時間をとられるパズルも無いから、ゲームとしてより、映画を体験するように楽しめる。ヒントマンの適切なアドバイスで、行き詰まった時でも、次に何をすればいいのかがすぐ分かるし、マウスだけで操作できるインターフェイスも、アイテムを取る、使う、移動する、話しかける、といった動作しかいらないので、分かりやすい。また、ストーリーや謎解きに関係が無い部分でも、色々と怖いことが起こるから、行動が脇道に逸れても、そこで退屈することはない。むしろヒントマンを頼りに最短距離で物語を進めると、本当に凄いシーンを見逃すことになる。
 それだけでも名作なのに、この物語はクライマックスにさしかかると、一転して、アクションゲームの要素が加わる。ちょっとの間違いが即、主人公の死に繋がる緊迫感の中で、的確に判断し行動しなければならない。女優さんの走る姿がちょっと緊迫感に欠けるのが残念だけど(それ以外は、本当にいい女優さんだ。胸はデカいし、金髪美女だし、ムービーの区切り目で、こちらの操作を待って、きょうつけしてる姿も可愛い。ホラーにはやはり金髪美女が不可欠だ)、正に、スリリングなクライマックス、マウスを握る手にも汗がにじむ(このクライマックスで失敗した時のエイドリアンの死に様の惨さは、スプラッタマニア必見の強烈さ。私は目をつぶってしまったほどだ)。スプラッタが苦手な人は、ショッキングなシーンを抜くモードが付いてるから、そっちで遊ぼう。
 あまり具体的なシーンを挙げると、これから遊ぶ人に悪いから書かないけれど、一度のプレイではとても全てを見尽くせないほど、あちこちに凄いシーンが隠されている。それは、ショッキングなスプラッタシーンの時もあり、また、ゴシックホラーならではの美しさに溢れた恐怖の光景だったりもする。七日間の物語を好きな日にちから始める事が出来るから(必要なアイテムももちろん揃った状態で始められる)見損なったシーンだけを探すことも出来る。好きな小説を何度も読み返すように、何度でもプレイしたくなる作品だ。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.08)

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