SAM & MAX HIT THE ROAD
販売元:マイクロマウス
定価:9800円(税別)
動作環境:Mac, DOS/V
フィルムノワールという、犯罪映画のジャンルがある。1940年代にハリウッドが発明した、ペシミスティックな犯罪スリラーのことだ。このCD-ROM「SAM & MAX」には、フィルムノワール・モードというのがあって、ボタン一つで画面が白黒(正確にはグレースケールだけどね)になる。ハードボイルドが白黒になればフィルムノワール、簡単なことだ。この作品、全編このノリで、ハードボイルドを愛しすぎて退廃しちゃったマニアの世界を展開する。ハードボイルドなストーリーと、ちょっとしたロマンスに彩られた事件、クールに聞き込みをし、時には暴力に訴え、時には賄賂で懐柔しながら事件の核心へと車をスッ飛ばしていく二人組。ヒャッホー、これこそがハードボイルド。ハワード・ホークス監督の名作「三つかぞえろ」を例に挙げるまでもなく、ハードボイルドの美学は、ちょっとバランスが崩れると、一気にスラップスティック・コメディーとなる。済ました顔で相棒を放電するヒューズボックスに突っ込む犬のサムは、正にハードボイルド、タフでなければ生きていけない世界の主人公だ。相方のマックスにしたって、頭ぶっとびイカレ兄ちゃんで、一度暴れ出したら相手のクビを引きちぎるまでやめないっていう凄腕。
ビュンビュン飛ばすストーリーは、軽快な4ビートに乗って、ほとんど日活アクション映画の世界だけど、つまりは、ハードボイルドをパロディにして、なお、かっこいい事やろうとしたらこういう風になるっていうことだ。ね、好き者にはたまんないよ。そんでもって凄いのは、さすがルーカスアーツというか何というか、それでも殺伐とした暴力シーンは一切無く、全てのバイオレンスはコメディーの呼吸の中で笑い飛ばせるようになっている。カッコいい。
ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」を思わせるラシュモア山でのバンジージャンプもあれば、インディ・ジョーンズを思わせるトーテムポールの謎解きもある。ハードボイルドから始まって、巻き込まれ型サスペンスを経て、謎解き、アクションと、畳み込むように展開するプロットのばかばかしいほどのスピード感と爽快感。ルーカスアーツ大好きのミニゲームも充実して、サービス満点の一大娯楽大作。アメリカ中を走り回る、まるで現代のイージーライダーって、ま、それでもこの二人は、警察官なんだけどね(フリーだけど)。
DOS/V上がりらしいインターフェイスはちょっとまどろっこしくて、すばやく行動を切り替えなければならない時なんかに、ちょっともたつくけど、失敗を何度しても、またやり直せば問題なく先に進める構造は、俺みたいなウッカリ野郎にはありがたくって涙が出る。動作は、まるで普通にビデオを見てるみたいに速いし、動きはきちんとスラップスティック・コメディーの定石を踏まえてるから、言葉が少々わかんなくっても、映像だけで全てが分かる。やたらと用意されたジョークが楽しめないのは残念だけど、所詮はアメリカンジョーク、大したことは言ってないから、カンで読みとって、腹を抱えて笑って済まそう。大事なのは、セリフじゃなくて、行動。これって画面で見せるエンターテイメントの基本だよね。実際、説明的なセリフが多い、親切第一、楽しさ二の次の作品とはひと味違う本格派だから、頭で考えてると置いてかれるよ。
(納富廉邦)
(MediaDirect CD-ROM MAGAZINE 1996.03)
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