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1997.3.13
 羽田空港で、おばさんたちが、「『ふたりっ子』機内放送でやってくれるかなあ」「そりゃあ、やるでしょう。今、一番いいとこだもん」という会話をしていた。そんなもんやるわけないけど、別に、やると思ったっていいし、そんで、やらないって怒らなければ思う分には楽しい。要は、期待はしないで、遊んでればいい。そうやってれば「裏切られる」なんてことはない、というより、実は俺は裏切られるということがよく分からない。すぐ信用するけど、それは、言ってることだから、そうなんだろうな、と思う方が楽しいから。だから、それがウソだろうが、詐欺だろうが構わない。信用するのは、俺の勝手で、信用したからといって、それは単に、「そういうんだから、そうなんだろうな」と思うだけだし。だから、信用して○○をする、ってこともない。ただ「ふーん、そうか」と本気にするだけ。それって変かなあ。いいけど。
1997.3.14
 日付は3月14日だが、実はこれを書いているのは、3月15日の午前0時37分だ。しかし、普通、生活していれば、このあたりは曖昧になるのは当たり前だろう。だから、テレビの番組欄だって、3時〜4時くらいでも、前の日の日付として扱っている。これが、〆切になると、「5日〆切でお願いします」と言われたからといって、5日の23時55分でもOKというわけにはいかないのが困ったものだ。このへんは、会社や個人の営業時間や生活時間によって、その都度変わってくるのが厄介。
 例えば、僕は、ほっとくと、平気で昼12時〜2時くらいに寝て、夕方6時くらいに起きる生活になってしまう。そこまで極端でなくとも、朝8時〜10時に寝るのは日常的だ。だから、「私は夜型だから」と言われて、電話しようとしても、気がつくと午前5時を回っていて、電話すると寝てるというケースが多い。つまり、同じ夜型とは言っても、その生活時間帯には大きな違いがあるのだ。大体、夜型だと自ら言う人でも、4時くらいには寝てる人が多い。「最近、生活が昼夜逆転しちゃって」と言う人が、それこそ僕のように、昼の12時過ぎに寝ているわけでもない。でも、昼夜逆転というなら、12時間はずれてないと言葉として間違いだ。四分の一回転を逆転と言うのは、大げさにし過ぎだろう。なんてことを考えていたら、何だか、どんどん自分が、世間と関係なく生活してるような気がして寂しくなるのだけれど、このあいだ、新浦安のブライトンホテルに泊まったら、そこのルームサービスに「ミッドナイト・ブレックファスト 6時〜8時」というのがあって、無闇に嬉しくなってしまった。「そうだよね、この時間って深夜だよね、朝じゃないよね」とか言って盛り上がった。何だか、社会の一員として認められたような気がした。
 今の僕の生活についてくるだけの夜型(もしくは究極の朝型)は、知人では一人だけだ。ね、保坂ちゃん。

1997.3.15
 結婚式に出たんだ、従弟の結婚式に。

1997.3.16
 「近頃の女子高生は、身体は大人だが、まだ心は子供」というようなことを言う人がいる。でも、そーかー?とか思う。それって、充分セックスしたくなる体つきしてる、って、それを言った人が思ってるってだけのことでは?という気がする。胸がデカイとかだけで「大人」というなら、大人じゃない50才だっているってことになるしね。やっぱ、そういうことじゃないでしょ。それで、「心は子供」ってのも、中々分かりにくい物言いではある。できるだけ正確に言おうとするなら、それは、「頭が悪い」になるような気もするしね。

1997.3.17
エンタテインメントということ(1)

 作家の我孫子武丸さんが、「人間を描く」ということについてのエッセイを、自分のホームページ上で発表している。細田氏という編集者による意見への反論というような形になっているのだけれど、我孫子さんは、自ら、「細田氏の意見の方に多くの人が頷くのではないか」というような事を言っている。僕にとっては、我孫子さんの意見は、しごく当たり前だったので、ちょっと変な感じがする物言いだな、と思っていたのだけれど、我孫子さんの反論の中に「言い換えると『みんなミステリなんか好きじゃない』ということ。言葉は過激だが、要は『本格』あるいは『コアなミステリ』、『ミステリをミステリたらしめている部分』が好きな人は実際のところ非常に少ない(といっても何万人かはいると思うが)、ということである。」という部分を読んで、ああ、なるほど、とか思って、色々考えてしまった。これは、僕がよく音楽の話をしてるときに使う「みんな、あんまり音楽って好きじゃないんだ」という物言いと同じようなものなのかも、とか。
 「音楽なしでは生活できない」という人は結構いる。でも、それは、音楽を流しっぱなしにして、その中で生活するのが好き、という場合が多い。そして、そういう音楽との付き合いであるから、比較的、耳に快いというか、聞き流せる曲をかけている場合が多い。かつて、友達に、「パーティー用にテープ作ってきて」と言われて僕が作ったテープは、「良い曲ばっかりなんだけどさ、つい聞いちゃって、話がしにくい」と言われてしまったことがある。それは、もちろん、そういうシチュエーションを無視していた僕のミスなのだが、「聞き流す」という聴き方がほとんど出来ない僕としては、凄くナチュラルに選んだ曲であったことも確かだった。ここでは、音楽は「実用品」として扱われているのだな、と思った。それはそれでいいとは思うけど、でも、そうじゃない聴き方だってもちろんあるし、聞き流すのに向かない音楽もたくさんある。そして、僕にとっては、聞き流せる曲は、基本的に「自分にとってどうでもいい曲」だ。つまり、「好きな曲」ではない。「好きな曲」は、それがどんなタイプのものであろうと、かかった瞬間、聞き入ってしまう。みんなそんなもんだと思っていた。でも、ヒットチャートは、「聞き流す」ことがしやすい音楽で溢れている。そうでなければ、「歌い上げる」バラードだったりしてね。こっちは「感情移入」出来る曲なのかな。どっちにしても「実用」の匂いがする。
 最近のテクノの人気や、テクノ系のトランス状態とか見てると、つくづく、結局は阿波踊りが好きなのか?とかも思う。身体で聞くといえば聴こえはいいけど、要するに、楽にノれるのが好きってことか?と感じるのだ。最近のビートのスピードと、そのステップを見てると、もう走ってるとしか見えない。もう、右足上げて、下ろして、左足上げて、下ろして、という動作以外不可能なスピードのビートだから、そりゃ走るしかないだろーよ、とか思うけど、それって、つまり、「リズムに対する訓練が無くても、簡単に踊れる」ということでしかない。そして、自らトランスに入るには、下手なグルーブ感なんて邪魔なんだな、と思わざるをえなかったりもする。おじさんたちが速いビートに乗れないからといって、速いのにノれればリズム感がいいのかというと、そんなことはない、というのはテクノで踊れば一発で分かる。わかんない人はリズム感が無いか、体質が阿波踊りかのどっちかじゃないの?とか思う。そうやって、カラオケファンとかのこととかも考えてると、「やっぱ、みんな音楽ってそんなに好きじゃないんじゃないの?」と思ってしまうのもしょうがないでしょ。
 「人間を描く」という物言いも、どこか、こういう「実用」の匂いを感じさせるから嫌いなのかもしれない。「小説で何かを学ぼう」とかさ。別に学んでもいいけど、読む前から学ぼうとするのはさもしくないか?とかさ。
(続く、2へ)



1997.3.18〜3.20

女の部屋。
 テープのダビングをしている若い女。部屋には、今、買い物してきたばかりの食料品、野菜、肉、ケーキなど、がそのままに置いてある。コンポーネントのステレオセットの側にカセットテープが2、3本、むき出しのまま置いてある。ヘッドホンをして、カセットテープを出し入れしながら細かいテープ編集をしているようだ。時計を見て時間を管理しながら作業を続けている。しばらくすると、その作業が終わったのか、テープを片付け始める。満足そうに笑いながら、そのうちの一本をデッキの中に入れて、他のテープを残らず片付けると、買い物の荷物を抱えてキッチンの方へ向かう。

女、キッチンで、楽しそうに、二人分の食事の支度をしている。

女の部屋の外(ドアの前)
 男がドアの前で呼び鈴を押そうとしてちょっと躊躇する。懐から拳銃を取り出す。しばらくそれを眺めた後、ポケットから鍵を取り出し、ドアの鍵を開ける。ノブを回してドアを少し開けると同時に、ドアの横の壁に身を伏せ、足でドアを大きく開く。その瞬間銃声が聞こえ、ドアの中から銃弾が奔り、欄干で反射する金属音が響く。その瞬間ドアの中に踊り込むと同時に拳銃を撃つ男。

女の部屋2。
 拳銃を構えたままの男と拳銃を握ったまま胸を真っ赤にして倒れる女。

女の部屋の外(ドアの前)2
 男がドアの前で呼び鈴を押そうとしてちょっと躊躇する。身嗜みを軽く整えて、呼び鈴を押そうとする。

女の部屋3。
 テーブルにはすっかり食事の支度が整っている。ちょっとしたパーティーのように奇麗にセットアップされている。女はその様子を一通り見渡した後、カセットデッキのスイッチを入れ、タイマーをかける。
その後、ゆっくりと玄関の方へ向かい、ドアの前に立つ。少しして呼び鈴がなる。

女の部屋(玄関)
 呼び鈴を聞きながらドアを見つめている女。一瞬後、ドアを開けて、男を迎え入れる。男が入って来る。

男「よう」
女「いらっしゃい。時間どおりね。準備できてるわよ。」

 女、男に背を向けて部屋の方へ向かう。男、ロープを取り出し彼女に向かって飛び掛かろうとする。足元にピアノ線が張られているのをとっさに気づき飛び越えて彼女の首を後ろから一気にしめる。崩れ落ちる女。

女「なにしてるのよ、早くあがって。」
男「ああ、ごめんごめん。」

 男、靴を脱いで、部屋の中へ。

女の部屋4。
 テーブルに向かい合って座っている二人。女がワインをグラスに注いでいる。

男「あ、そうだ。ビール持ってきてよ。」
女「えー、ワインの後でいいじゃない。」
男「やっぱ、夏はビールでしょう。いいから早く持ってこいよ。」
女「自分でとってくればいいじゃない。」
男「今日は俺のパーティーだろ。」
女「わかったわよ。でも、このワイン飲んでからね。」
男「だめ。今。」

 女、麦酒を取りにキッチンへ行く。その間に、男、彼女と自分の前にある、ワイングラスや、皿、料理などを素早く入れ替える。女が麦酒とグラスを持って戻ってくる。

女「さ、じゃ乾杯しましょ。あなたはビールでいいのね。」
男「あ、乾杯はワインでいいよ。せっかくだし。」
女「じゃあ、なんでわざわざビール持ってこさせたのよう。」
男「いいから。ほら、乾杯」
女「うん。退院おめでとう。」
男「ありがとう。もう、ずいぶん経つけどね。」
女「もう、全然いいの?」
男「もともと、悪いわけでもないからね。検査みたいなもんだよ。」

 食事をしながら、会話をする二人。男、女がちょっと脇を向いた隙に、拳銃を取りだし、テーブルの下から彼女に狙いを付ける。

男「テレビでも付けようか」
女「うん。リモコン取って。」

 男、フォークを置き、拳銃を隠したままリモコンを取って女に投げる。女、素早く受け取ってスイッチを入れる。テレビに電源が入ると同時に、男、撃鉄を起こし、女がテレビから向き直ると同時に引き金を引く。女、ビックリしたような顔で倒れる。男、立ち上がってテレビを消す。

女「えー、何で消すのお?」
男「え?ああ、何かボンヤリしてた。俺が、テレビつけようって言ったんだっけ?」
女「そうよー。ねえ、本当にだいじょうぶ?」
男「何を心配してるんだよ!」
女「え、でも。」

 男、懐に手を突っ込み、素早く抜くが、手には拳銃は無い。

男「いや、ごめん。何かまだちょっとね。昨日徹夜だったし、ちょっとぼーっとしてるみたいだな。心配しなくても大丈夫だから。」
女「ま、いっぱい食べれば心配ないよね。」
男「うん。結構これうまいよな。考えてみたら、料理作ってもらうなんて初めてだよな。」
女「最初で最後の大サービスよね。」
男「え、最後なの?」
女「これを普通って思われたらたまんないもん。特別なんだからね。今日は特別。」

 食事も終わり、簡単にテーブルの上を片付けて、珈琲とケーキを用意する女。

女「あれ、フォークとスプーン無いね。」

 キッチンに戻る女。その間に珈琲とケーキを入れ替える男。女、戻ってくる。

男「さて、じゃあ一勝負いこうか。」
女「えー、またやるの?何回やっても同じよ。」
男「負けっぱなしは、嫌なんだよ。このままじゃスッキリ終われないし。」
女「何?」
男「いや、スッキリしないじゃない。俺、一回も勝ってないんだぜ。」
女「実力の差でしょ。」

 女、引き出しを開けると、未開封のバイシクルが1ダース程入っている。そこから一組取ると、男に投げる。手首のスナップだけで投げているのだが、そのカードはかなり鋭く飛んでいき、男は受け損ない胸に当てて、ちょっとうめく。すぐ取り直して、封を切り、シャッフルする。女はステレオの所に行きカセットのスイッチを入れる。別に音はしない。テーブルに戻り、女もシャッフルする。女のシャッフルは、やたらと鮮やかで、それを見た男は、面白くなさそうに珈琲を飲み干す。

女「ルールは前と同じでいいわね。」
男「ああ。」

 二人はブラックジャックを始める。男、「よーし」とか「来い!」などと言って、自らに気合いを入れるが、一方的に負け続けている。チップは無し。現金で直接やりとりしている。

女「もう一枚でしょ。」
男「待てよ。」
女「もう一枚ひいてドボンよ。」
男「もう一枚」
女「ほらね。それで、今はツキの波に乗れてない、って言うのよね。」
男「……」
女「はい、ブラックジャック。これでいくらになった?」
男「いちいちうるさいんだよ!」

 「いちいちうるさいんだよ!」という言葉は女と男、同時に言い、女、やけに笑う。

女「これだけ読まれて、まだ勝てると思うの?いい加減にやめましょう?」
男「しょうがないか。」
女「そうよ。」

 男、おもむろに拳銃を取りだし、彼女に突き付ける。

男「……」
女「ふーん、それで」
男「俺がその気なら、もう3回殺してるんだよ。」
女「誰を?」
男「なんなんだよ、お前は!」

 女は終始落ち着いた感じで、口の端に笑みさえ浮かべて座っている。それは、落ち着いてさえいれば、この場を収められる、と思っているようにも、気違いにも見える。その前で目を血走らせ、こっちは完全に狂っている感じで、震えながら拳銃を握り締めている男。男は苦しげにも見える。息も荒くなっている。

女「ねえ、3回、私が殺されてるって、もしかしたら最初はドアの前?」
男「そうだよ。俺が鍵を使ってそっと入ってたら、お前、俺を撃ち殺すつもりだったろう。それをかわして1発だ。玄関入ってから無防備に後ろを見せて、俺を誘ったろう。床にピアノ線仕掛けて。それ飛び越えて2回目だ。」
女「やればよかったのにね。その時に。」
男「食い物や飲み物も用心して入れ替えた。そしてテーブルの下から撃つ、これで3回、お前は死んでる。」
女「バカじゃないの?」

 女、冷ややかに男を見ている。男、目を見開いたまま、ぴくりとも動かない。冷たく喋り続ける女。それに答える男の声は妙に虚ろに聞こえる。

女「そのへんが精一杯よね。」
男「ああん。」
女「ドアの横はちゃんと見たの?薬たっぷり塗った針を28本、あなたの首から背中に当たるように、仕掛けてあるわよ。」
男「それを読んでたのか」
女「床のピアノ線は1本じゃないの。あなたそれにも気がつかなかったのね。気違いのくせに、私に勝とうって?そのまともに動きもしない頭で。」
男「くそ。」
女「テーブルの下で私を撃って、当たると思ってんの?テーブルの下を見もしないで。」
男「何で、そこまで俺の行動が読める。次のカードまで!いつだってそうだそれで俺が…」

 女、立ち上がって男の方へ行く。

女「ねえ、このバカ」

 女、男をちょっと押す。男、そのまま横倒しになる。

男「くそ、また負けた。今度は…」

エンディング
 女、カセットテープを止める。同時に男の声も切れる。女、キッチンから薬ビンを持ってきて、男の前に置く。拳銃を取り上げ、左手に持ったまま電話をかける。

女「もしもし、精神科の鮫島先生をお願いします。ええ。はい。私です。彼が、はい、急に暴れて、私、怖くて、それで、ええ、静かになったなって、思って、見たら、薬飲んで、倒れてて。…なんか死んでるみたいで。私…。」

 女、座り込んで、片手で拳銃を玩びながら、涙をボロボロ流す。言葉も途切れがちになりながら、電話に話し続ける。

女「ええ、はい。有難うございます。先生も来てくれますよね。はい。私、どうしたらいいのか。なんか、もう、なんにもわかんなくて。はい……

終わり。


1997.3.21
 昨日はうっかり、これをアップするのを忘れてしまった。書いたのは21日なのだけれど、今は、もう23日だ。と書くと、なにやら、きちんと21日に書いておきながら、アップが遅れただけのようだが、もちろん、そんなことはなくて、今、書いているのだけれど、そういう風に書くと、まるで23日に書いているように見えてしまう。実は22日に書いているのだ。「今」としか書かないところがミソね。
 というような文章を21日に書いて、わざと23日にアップするというネタなんだけど、これが何の意味があるかというと、ようするに、こうやって物事は書かれた瞬間フィクションになる、ということだ。これが小説なら、「今日は、1997年の3月21日だ」とか書いてあれば、誰もそれを嘘とは思わず、ましてや、本当とも思わず、「ふーん、21日なのね」とか思うだけだろう。それと、日記に書かれた日付も、本来同じことだ。どちらも、恣意的に書くことが出来る。ウソを付く必要が無いから本当、という推理は、こと文章の中では通用しない。文章は、それが書かれた瞬間、フィクションになるものだから。だからノンフィクションというジャンルは、本当の事を書くジャンルではなく、ノンフィクションというお約束で書かれたフィクションのことなのだ。当たり前のことだけど、ちょっと書いておきたくなったの。ごめんね。だって、今日は、死体を三つも見てしまって、気が動転してるの。何だか、現実そのものがフィクションになったような気がして。

1997.3.22
 ところで、3.21分の最後の数行
「だって、今日は、死体を三つも見てしまって、気が動転してるの。何だか、現実そのものがフィクションになったような気がして。」というのは、もちろん、私のことではない。たまたま、遊びに来ていた女子高生が書いたものだ(多分)。ということで、一日に死体を三つ見るって、どういう経験だよ、と聞きたかったんだけど、それは聞けずじまいで、彼女は帰っていきました。いちいち連絡先を聞く趣味はないので、もう聞けないかも。もし、誰か、彼女に会ったら、聞いてみて下さい。
 それはそれとして、どうでもいいけど、たまごっちにはまるオヤジはみっともないからヤメテね。お願い。 


1997.3.23
 昨日、「たまごっちにはまるオヤジはみっともない」と書いたら、結構反響があったんで、それについてちょっと書いてみる。そもそもの発端は、ちょっと前のじょしこーせー言葉の流行。あれが分からなかった。何故、じょしこーせー言葉を知らなければならないのか?さらに、何故、それを使う大人がいるのか? 本当に分からなくて、結構マジメに考えた。分からないと遅れている、オヤジと言われる、という人がいた。でも、俺から見ると、そういう言葉を使う大人ほどオヤジに見えた。元々、言葉は変わっていくものだから、別に正しい日本語を使え、と思ってるわけでは全然ない。「ダサイ」とか、「〜入ってる」とか、表現として、これまでになかったニュアンスの言葉は、流行とかと関係なく、ボキャブラリーになり得るだけの言葉だと思うしね。でも、「チョベリバ」は、言葉として、結構そのまんまというか、いくらでも他に置き換え可能に見える。置き換え可能なら、それは、その言葉が似合うかどうかが問題で、大人には似合わないんじゃない?と俺は思った、ということだ。似合わない若作りをする大人は、オヤジでしょう。きちんと似合う言葉に置き換えればよかったのに、と思う。もしくは、新しく作ってもいい。
 最近の若い男のサラリーマンが、髪伸ばして染めてるのも、何となく同じ臭いがする。オヤジに見られたくない、という根性が透けて見えて、かえってオヤジに見える。今や、髪染めてスーツ着てると、それだけで堅気の象徴に見えるほどだ。
 だいたい、女子高生をトレンドリーダー扱いしてるのが間違いの始まり。面白いモノを見分ける能力はさしてない、というか、基本的な財力も情報収集能力も、大学生やOLに劣るのにね。でも、その分、簡単な分かりやすいものが好きだから、そこでオヤジと一致する。これが怖い。
 たまごっち自体は、悪くない。でもね。
 例えば、30代のあなた。高校生の頃好きだったパンクロックを、大人が聞かないから大人がダサイと思った?逆に、パンク聞いてる大人の胡散臭さがイヤだったり、ちゃんと演歌聞いて、ちゃんと評価してる大人の方がカッコいいと思ったことなかった?
 元々、高校生の文化って、せまーい範囲の中でのものでしかないのよ。で、だから、その中にいる人には面白い。わざわざ、大人になってまで高校行きたいって思う?


1997.3.24
 要は、身に染みない言葉は使わない方がいい、ということだ。何らかの新しい言葉を覚えても、それが、これまで上手く表現できないでもどかしい思いをしていたことが一言で説明できる、というものならいいのだが、それ以外の言葉、特に、言葉と、その意味をワンセットで覚えたり、人が使うのを聞いて、マネしたくなったり、そういう言葉は、使わずに自分の中に置いておいて、自然に口から出てくるようになるのを待たなければならない。そして、口にも出せないような言葉は、書いてはいけない。言葉を使う最低限のルールだ。後は、適当というか、身に染みてさえいれば、それが全く新しい言葉であってもOKなのだ。どうせ、言葉では大したことは伝わらない。だからこそ、自分には伝わる言葉を使わなければ、何も伝わらない。だったら、黙ってたほうがマシだ。無口な男は、こうして生まれる。だから卑怯って言ってんだよー!いいけど。


1997.3.25
 「頭がいい」という属性は、それが表沙汰になった瞬間に、自分を縛るものになる。それって「頭が悪い」なのでは?とか、不利になりがちな事が多い時に考える。何だかスゲー莫迦。いいんだけど。そうやって選ぶということなんだろうけどね。


1997.3.26
 ライター稼業は、普通、一人でずーっと原稿を書いていることが多い。それはそれで楽しいし、一人で何かをするのは、全てを自分でコントロール出来て、気分もいい。でも、共同作業をしたくなることがある。だからといって、あまり大人数は疲れてしまう。そういう時、数人で集まって楽器いじってセッションしたり、バンドやったりする。共同作業のような個人作業のような、そういう感じで、楽だ。ということで、ロックバンド「CD-ROM評論家協会」及び、アコースティック・ユニット(石田・青木・納富)は、随時メンバーを募集している。


1997.3.27
 静かにベッドを抜け出して彼の方を振り返る。もう半年になる彼とのセックスも、彼のたるんだ皮膚も、汗も体臭も、精液の匂いも、最初からどうでもよかった。抱かれるのは嫌じゃない。ただ、一緒に寝るのは、時々嫌になる。好きな人、というわけでもないけど、禿げかかった頭も、柔らかいペニスも、愛してる。抱かれるのは、嫌じゃない。
 彼の手がベッドを這い回って探している。両親と住んでいるマンションよりも広いホテルで、大きなベッドで、誰よりもかわいがってくれているような気を一瞬だけでも感じさせてくれるから、今はまだいい。
 「こっちにおいで」
 この声は嫌いだ。誰に言ってるの?と思う。違う。彼が欲しいのは他のものだ。何故だかそう思う。ナイフで首筋を切ってみようかと考える。噴き出す血が見える。彼を咥えて、彼を噛んでいる。ちょっと涙が出た。
 今日は僕の17才の誕生日だ。


1997.3.28
  何か、あなたと喋りたくなったけど、28日は予定があると言っていたので、電話をするのはやめて、手紙にしときます。帰ってきてたとしても、疲れてるかもしんないし、でも、多分、あなたは付き合ってくれるだろうし、そうやってゾンビ化は進んで行くものだから。
 でも、あなたの声が聞きたいと思う俺は、別にいなくなってしまったわけではないので、このメールを受け取って、時間見て、さほど時間が経っていないようなら電話してね。じつは、会いに行きたいというのが本当の所のような気もしているけれど、そのへんは曖昧。面倒くせえ、とも思っているからなあ。
 喋りたくなったのは唐突だから、別に、これを言いたい、という話題があるわけでもなく、喋ってたら、話は勝手に続くのが俺だから、そういう喋りをしたいな、と思った時、あなたくらいしか相手を思いつかない、というのが俺の不幸かもしれないし幸せかもしれない。別にどっちでも構わない。問題は、あなたと喋りたくなったという気持ちの正体ではある。
 これを、「惚れた」ということにすると、別に最初からあなたのことは大好きなので、意味はない。「SEXしたい」にすると、会いに行くの面倒と思ってる上に、テレホンセックスの趣味はないから、やっぱり違う。単に「口を動かしたい」というのが正解に見えるが、口なら今も動かしている。リアクションが欲しいだけ、という話もあるが、別に、こっちがリアクション専門になっても構わないし、あなたと喋りたい、ということは、会話にしかなりようがない相手を選んでいるのだから、ウナヅキ役が欲しいわけでもない。
 実は、これは、「時間」なのだと思う。時間を共有しつつ、単にダラダラと過ごしたい、という、そういうことをしたいというのが本当のところだろう。だから、相手を選ぶ。そういうのをいちいち説明しなくても、そのままそういう状況に入れるというのは、何の話しても、その人相手なら、それなりに面白くなるということだから。「ダラダラ」というのも結構、これで難しいものなのだったりするのである。


1997.3.29
 仕事でホームページのデザインをしているという人が、HTMLエディタを使うのはカッコ悪いから、使っているのがバレないようにしたい、と言った。何だかよく分からない。しかし、そういうことはあるらしい。カメラマンの友達が言うには、別に必要なくても、機材をいっぱい持っていって、もったいつけて時間かけて写真を撮る方がクライアントに気に入られるという話をしていた。でも、自分は照れてしまうから出来ないと。芸術や哲学のうさんくささってこのへんかな、とか思う。哲学なんて、本来は分かりやすいはずなのに、というより、捉えることの難しい何かを捉えることが哲学で、だから捉えてしまえばそれは明確になって、分かりやすくなるはずなのに、明確に出来ないまま、思考の過程だけを見せるから、あんな頭の悪いことになっていく。なんだかなあ。普通に話せ、とか思う。


1997.3.30
 〜 東京港野鳥公園
「大井埠頭の中、青果市場の先に、東京の自然があるんだよ。」
「東京の自然なら、皇居だって浜離宮だって、高尾山だってあるじゃない。」
「そうなんだけど、ここは自然じゃない自然があるくせに、自然愛好者が集まるという、凄い所なんだ」
「野鳥公園って言うくらいだから、バード・ウォッチャーが集まってるんでしょ。自然愛好者との違いって良くわかんないけど、言ってることは何か似てるみたい。でも、自然なら自然の所に行けばいいのに、ここに集まるってどういうことなんだろ。」
「人間も自然だからいいけどね、でもどうもあそこはクサい、入り江も沼もみんな人口だからさ、鳥だけ自然物ってヘンじゃん?鳥もロボットかもよ、人造野鳥。」
「草木もみんな造り物で超ハイテク公園だったりしてね。「ジュラシック・パーク」野鳥版。いきなりセコイけど。」
「恐竜造るのも、鳥造るのも技術的には一緒じゃん、タマゴから孵すだけだもん、暖めりゃいいんでしょ。」
「そりゃそうだけど、暖めるだけって、それじゃ、レトルトのカレーと一緒じゃん。ま、それはそれとして、ここって具体的にどんな人が来てるの?」
「だから、自然愛好者だってば。って、そういうことじゃなくてね、はいはい。来てるのはバードウオッチャーのサークルみたいな団体さん、それから個人の鳥好き、彼らは望遠鏡なんかも全部自前で、プロ顔負けのズームレンズを付けたカメラを持ってたりするよ。後はご家族連れ、ピクニックに来てるってノリで。」
「本格的な人も結構いるんだ。ま、実際、鳥はかなりの種類がいるみたいだしね。汚い海とかにもカモメとかウミネコって絶対いるし、鳥って中々サバイバルな連中だよね。」
「マンションの中にもインコとかいるしね。ま、鳥を見に行くには便利だと思う、淡水も海水もあるし温室みたいな展望ルームから見られるようになってて、喋ったりしても鳥が逃げないわけ。サークルでは先輩が後輩にレクチャーしたりもしてるし、センターの中には資料もあるしね、ホントに鳥がいるような自然界に行ったら、そういうわけにはいかない。」
「それに、羽田付近ってロケーションはいいよね。取って付けたみたいなフォローだけど。」


1997.3.31
 誰かが呼んでるような気がしたんだ。
 僕が寝てる部屋の天井のほうから、きこえたんだ。
「誰、僕を呼んでるのは?」小さな声で言ってみた。
「誰だ、俺を呼んでいるのは?」やっぱり天井の方から聞こえた。
「誰だ?俺を呼んでいるのは」また声だ。
 だんだん怖くなってきて、だからフトンかぶって寝ちゃったんだ、僕は。

 次の日、僕は一日中、天井を見てたんだ。
「なにをしているの?」おかあさんが言うから
「ねえ、天井の上にはなにがあるの?」って聞いてみたんだ。
「なんにもありませんよ」
 おかあさんはそう言ったけど、僕は天井裏に行く事に決めた。
 何だか、ドキドキしてきちゃったな。

 天井裏に上ったことなんて無かったけど、どこから上るのかくらい、僕だって知ってるんだ。怒られて、お母さんに押し入れのなかに入れられちゃった時、押し入れの上の方に小さな入り口みたいなのをみつけたんだ。あそこからなら、行けると思うんだ。

 ちょっと怖かったけど、僕は天井裏に上ったんだ。

 真っ暗でなんにも見えなくって、だけどなんだかワクワクしてきた。
 僕だけの遊園地にきてるみたいで、僕はすっかり嬉しくなっちゃったんだ。
 真っ暗な中にいろんなものが見えてきた。
 よくみると、ここにはなんだってあるみたいだ。
 ジェットコースターが目の前を走っていったし、そのむこうには動物園があるんだ。 
 僕は、すっかりここが好きになった。
 一人で遊ぶのもいいけど、今度はお向かいのユミちゃんも連れてきてあげよう。
 でも、ユミちゃんは弱虫だから、嫌がるかもしれないな。

 ぼんやり、ここでユミちゃんと遊ぶことなんかを考えてると、目の前にちっちゃな光が見えたんだ。真っ暗な中にポツンと光ってて、とっても不思議な感じだ。なんだろうって思った僕は、そっと光のほうに向かって進んでみたら
「俺を呼んでいるのは誰だ?」という声がして、びっくりした。

 びっくりしたけど、
「そこにいるのは誰ですか?」って、小さな声で聞いてみたんだ。
 だけど、僕の声はちいさすぎて聞こえなかったみたいだった。もう一回聞いてみようと思って少し近づいてみると、ガサッと音がして、僕はまたびっくりしちゃった。なんだか大きな怖いモノがいるみたいで、凄く怖くって僕は目をつぶっちゃって。でも、目をつぶると恐ろしい怪物がすぐ側にいるみたいで、もっと怖くなった。

 怖くないぞって一所懸命思いながら、目を開けてみたんだ。
 そして、光のほうをじっと見た僕は、
「なあんだ」っておもった。
 そこにいたのは、ちいさな、でも歳をとったネズミだったんだ。
「ぼうやかい?わしを呼んでいたのは?」そのおじいさんネズミはいったんだ。
「ううん、僕は声が聞こえたから不思議に思って上ってきたんです。」
「いいね、ぼうやは。わたしはもう自分では動けないんだよ。でもね、誰かがわしを呼んでるんだ。いかなくっちゃ!と思うんだよ。」
 ネズミのおじいさんの話は、難しくて僕にはよく分からなかったけど、とっても寂しいそうだって事は分かったから、   
「何をすればいいの?」って聞いてみたんだ。
「僕に出来ることはなんでもするよ」って。
「ありがとうよ、ぼうや」おじいさんは言ったんだ。
「でもね、もういいんだ。こうやってぼうやにも会えたんだしね。ただ、今思うと、いつも誰かが呼んでいたような気がするんだよ。それに応える事が出来なかった。というより、その声が聞こえなかったんだ。聞こえたときにはごらんの通りさ。こんなことをぼうやに言っても分からないだろうね。でも、ぼうやには、こんな思いをさせたくはないんだよ。」

 おじいさんの話は、やっぱり難しくて分からなかったんだけど、僕は、どうしてか涙がどんどん出てきて止まらなくなっちゃったんだ。

 部屋に帰っても、あのおじいさんネズミのことを考えてぼんやりしてた。
 そしたら、聞こえたんだ、僕を呼んでる声が。
 僕は、ユミちゃんの家に走っていきながら、おじいさんネズミの声を聞いた。「ぼうや、出番だぞ!」って。


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