97.4.01-4.15

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1997.4.16
 あのさあ、俗にコギャル言葉って言われてる言葉のアクセントって、ただの東北弁じゃない? ついでにメイクも何だか日焼けした北国の子供って感じだしさ。もしかして、時代は東北へ向かっているのだろうか。何せ、東北のおじさんと喋ってたら、コギャルの真似してるオヤジに見えてしまうくらいだからなあ。あれは、全然、本人のせいじゃないのに、聞く方は気持ち悪いという、中々可哀想な状況だ。そのうち、ズーズー言い出んじゃないか、とか思うと、結構イヤだぞ。


1997.4.17

 原宿・表参道。そこは、東京の中でも、最も東京らしい場所。昼夜を問わず、最先端のファッションに身を包んだ若い男女が、外国人のモデルが、ビジネスマンが、やや早足で通り過ぎて行く。「木の葉を隠すならば、森の中へ」という言葉は、エドガー・アラン・ポーの小説「隠された手紙」によって有名になった隠遁術の極意である。もちろん蘭学に通じた高野長英が、そのことを知らぬはずはない。ポーの小説を読んだ彼は、行き過ぎる人の波の中、そのほとんどの人にその存在さえも知られぬよう、ひっそりと、実に巧妙に、今もなおその姿を隠し果せている。
 幕府の鎖国政策を批判したことによって投獄されていた彼は、弘化二年一月の江戸大火の際に伝馬町の牢から逃亡している。長居逃亡生活の後、人相を変えるために顔を焼いて、この青山百人町に隠れ棲むが、ついに発見され、短刀で喉を突くが死にきれず、ついに捕らえられた、という。
 しかし、見るがいい。近代的なファッションビルの足下、柱をくり抜いたその中を。これほどに巧みな隠れ家がここに存在することに、一体どれだけの人間が気が付いたことか。逃亡の天才、隠遁の術を極めた高野長英は、この大都会の中で、己の存在を多くの人々の目の前に大胆に曝しながら、見事に隠れ棲むことに成功している。長い長い逃亡生活は、彼をしてこの土地を選ばせた。ここが最高の隠れ家になることを知っていたかのように。


1997.4.18-19

 ああ、そうか、と思う。
 でも、それと同時に、こんな台所なんかで、とも思う。
 お前がぶつかってきたときには、何が起こるのかがわからなかったから。いや、本当は分かってたんだけど、それが起こるとは思っていなかった。読みが甘いといえばそれまでのことだ。でも、そんなことだとは思わなかった。怖いな。思わず、お前の身体に手をまわす。抱きしめる。愛してる、と思う、多分。

「包丁、危ないよ。」
「でも、人を刺すなら、ちゃんと刃を上にして、そう、ちゃんと固定して、そのまま相手にぶつかるようにしないとね。」

 そんなセリフを言ったのは俺だったと思う。「どうして、そうなの」とお前が言ったかもしれない。俺が考えたのかな。どうでもいいや。でも、俺はそうなんだからしょうがないじゃない。温かい。凄く。お前の手が。俺、体温低いはずなのにな。どうして、こんなに熱いんだろう。アレ、泣いてるの?いいよ、泣かなくて。お前に殺されるなら、文句はない。好きだから。声は出たかな。うん、本当だよ。ウソじゃない。でも、こんなバカに殺されてたまるか、とも思ってる。こんな、考えればわかること。刺して、殺して、どうするんだろう。キツイのは、お前の方なのに。俺は、これで死んじゃうんだから。ああ頭悪い。泣くくらいなら、こんなことするんじゃない。したんだったら、堂々としてろよ。ああ、バカだ。そうか、こいつバカだったんだよな。困った。でもバカ相手になら、いくらでも優しくなれる。お前が言うように、俺はそうな奴だから。どうして、そうなの?って聞くくらいだから分かってんでしょ。もしかして、言葉のはずみ?頼むよ。怖いに決まってるじゃない。死ぬのなんかイヤに決まってるじゃない。でも、このシチュエーションでそんなこと言うような奴だったら、俺なんかとっくに俺であることをやめてる。いいんだ、自分で選んだんだから。痛いけどね。本当に痛いんだよ。分かってる?いいけど。

「泣くな!」

 あれ、まだ怒鳴れるんじゃない。不思議だなあ。死なないのかな。これで生きてたら相当カッコ悪いぞ。でも、死にたくはないし。あれ、俺の声が聞こえる。デヴィッド・ボウイのスペースオディティだ。ああ、こないだのセッションのテープ貸してたんだっけ。カウントダウンする俺の声。それに被さるお前の泣き声。うるさい。でも、三つ数える前に、俺は。


1997.4.20-21

Music for the Midnight
(夜型の人へ送る音楽集)

01.今夜はブギーバック(スチャダラパー)
02.ディケイドナイト(大貫妙子)
03.20th Century Baby(T REX)
04.S.E.X.(かしぶち哲郎)
05.I'm Swaing in the air(ルースターズ)
06.My My Hey Hey(Neal Young)
07.無防備都市(ムーンライダーズ)
08.ザ・ガードマンのテーマ
09.身体と歌だけの関係(ハイポジ)
10.九月の冗談クラブバンド(宇崎竜堂)
11.EX FAN DES SIXTIES(JANE BIRKIN)
12.Science Fiction Doubule Future
13.百合コレクション(ヴァージンVS)
14.STEPPIN' INTO ASIA(坂本龍一with矢野顕子)
15.Dream On(エアロスミス)
16.地獄 心だけ愛して(山崎ハコ)
17.都市生活者の夜(JAGATARA)
18.裸にされた街(PANTA & HAL)

 しかし、こんなの考えるのに二日もかけるなよ。でも、このテープ誰か作ってくれないかなあ。


1997.4.22

 文章を書いていると、絵を描いたり、写真を撮ったりしている人から、「あなたは理屈でものを考えるけれど、私は理屈じゃなく、感覚的に考える」と言われることが多い。これが、いつもよく分からない。まず、感覚的に考える、ということだけど、考えるって、感覚的なことに決まってるじゃない、と思う。考えることが感覚的で抽象的だからこそ、文章なり、絵なりにして、具体的な物として外に出すわけでしょ。もし、感覚を言葉にすることが「理屈」と言うなら、「理屈」だって立派なアートじゃない?自分の考えを人に伝える手段として何を使うかは、人それぞれで構わない。でも、それがたまたま言葉だからといって、それを「理屈」で片づけるというのも、随分貧弱な感覚じゃない?とか思う。後は、技術でしょ。伝える技術として、言葉を使ってるのがライターだし、絵を描くのが絵描きだ。普段、言葉を使うところに、いちいち絵を描いてられないっていうのなら、言葉を使う技術を身につければいいだけのこと。俺だって、絵で説明しなければならない状況なら絵を描く。写真の方が伝わると思ったら写真を撮る。曲だって作るし、踊りだって踊る。ビジュアルから入るから感覚的、と思ったら大間違い。そもそも俺の理屈なんて、何故かは知らないけど、正解だけは分かってしまうから、それに理由付けてるだけだもん。感覚的の極みだ。だから、いきなり正解を示せば分かる相手とは話が早い。そうでないと、前に書いたようなことを言われたりして、ま、伝える技術というか、正解に対する理屈付けがヘタなだけかも知れないけど、「そのことについては、考えたくない」とか、「分からない」とかを、そういう言葉で置き換えてるだけっていう気がすることが多いのも事実。私の「気がする」は、結構正解だったりするんだから、そういう事を不用意に吐くのはやめた方がいいよ、とか脅してみるけど、これが脅しになるような相手なら苦労はないのよね。「感覚」とか「感性」とかを思考停止の言い訳に使い始めると頭悪くなるから注意しようね。


1997.4.23-26

  路上(夜)

 二十代前半くらいの男の子と女の子が歩いてくる。どうやら会社の飲み会かなんかの帰りらしい。二人は、楽しげに笑ったり、喋ったりしながら歩いている。
 音楽がかぶっていて、その会話の内容は聞こえない。ただ、恋人同士でない事がわかる程度に仲良く喋っていて、女の子は良く笑っている。
 やがて、女の子のマンションの前に辿り着く。

  女の子のマンションの前(夜・路上)

女「あー、着いた。今日はどうも有難うございました。
男「え?」
女「わざわざ送ってくれて。」
男「ああ、いえいえ。ここに住んでんだ。」
女「うん、ここの1階。あ、そうだ、ねえ、この後なんか予定とかってあるの?」
男「俺?別に、帰って寝るだけ。」
女「じゃ、あがって、コーヒーでも飲んでかない?」
男「え?あがるって…橋本さん(女の名前)のウチに?
 (男はイキナリ動揺する。)
女「迷惑かな?」
 (女の子はいたって無邪気で天真爛漫。)
男「いや、でも、もう遅いし、女の子は早く寝ないと、お肌に悪いだろうし、やっぱさー…あの…」
 (男、冷静を装っているつもりでも、声が明らかにうわずって、裏がえったりもする。)
女「遠慮しないでいいよ。送ってもらったお礼。ね。私コーヒー煎れるの結構上手なんだから。」
男「うん、じゃあ、御馳走になろうかな。」
女「ん。(とってもニコヤカ)」

  女の子のマンション(夜・入口)

 女の子、郵便受けの中から幾つかの封筒を取り出したりしている。その横でキョロキョロする男。

女「こっちよ。」

  女の子の部屋(ドアの前)

女の子、鍵を開けて、男の子の方を振り返る。

女「ごめんね、ちょっと待ってて。ちらかってるから。
男「う、うん。」

 女の子、ニッコリ微笑むと部屋の中に入っていく。
 男の子、廊下の壁によりかかって、ポケットからタバコを取り出してくわえる。火を点けようとする手が心なしか震えていたりもする。
 で、別に誰が見ているわけでもないのに、目を細めてタバコの煙を静かに吐き出してシブがったりするんだけど、どうしても顔がほころんでデレーッとしてしまう(といっても、この男の子にも露骨な下心があるわけじゃなく、単純に女の子の部屋に入れるって事に対してドキドキしてる。トキメク≠チてこーゆー事だったな、忘れてたけど、とか、何かそーゆー事を思ってる)。
 で、何かつい喜びというかトキメキを全身で表現したいという衝動にかられ、誰もいない廊下でくわえタバコのままガッツポーズをしてしまうのであった。
 と、無人のはずの男は廊下で何やら背後に視線を感じて振り向くと、案の定、そこには隣の部屋の住人と覚しき女性が、何この人コワイ的なまなざしで立っているのであった。ガッツポーズのまま振り向いた男の子は、あせって、とりあえず体操のふりをして、その場を収めようとしてしまう。
 まあ、隣人もいなくなって再び廊下に一人佇む男は、もうおとなしくしてりゃいいのに、却って今の、ああ見られてしまった恥ずかしい的感情を振り払おうとしてか、革靴でツマ先立って歩いたりとかの一人遊びを始めてしまうのであった。で、やっぱり夢中になっていると、ドアが開いて女の子が顔を出す。

女「(微笑みながら)何してるの?」
男「え、あ、いや。」
女「お待たせしました。どうぞ、ちらかってるけど。」

  女の子の部屋の中

 彼女に促されて、男は部屋に入る。小綺麗で手入れの行き届いた部屋である。男、そのきちんと片付いた女の子らしい部屋の様子に感動する。

女「スリッパとかないから、そのままあがって。」
男「お邪魔します。」

 靴を脱ぐ男。すると!右足の靴下が破れて、足の親指が力強くハローをしている。男、あがるのを躊躇する。

女「どうぞ、遠慮しないで。」
男「うん。」

 男、左足でなんとか隠しながら悟られないようにテーブルの方にいって腰掛ける。で、左足で、右の靴下を一生懸命たぐりよせたり何かする。

女「あ、ごめん。そこ私の指定席だから、こっちに座って。」
男「あ、そうなの?」
女「うん、普段、ここに座ってるから、何かそこじゃないと落ち着かないの。ごめんね。」
男「ああ、いいよ。」

 男、再び足を隠しながら立ち上がって、位置を変える。

女「すぐ、コーヒー煎れるから。お砂糖とかミルクは?
男「あ、ミルクだけもらう。」

 男、一息ついて、改めて部屋を見回す。ぬいぐるみや大きな姿見、クッション、化粧品の瓶、ティッシュペーパーの箱にかかったカバー等の男の生活には珍しいものがある。
 で、本棚に目が止まる。吉本ばななとか村上龍、林真理子なんかが並んでいる中に「骨法の極意」とか「ザ・喧嘩学」とか「人体解剖学入門」とか「リングにかけろ」の全巻揃いなんかがあったりもする。

女「見たい本あるんだったら、勝手にとっていいよ。たいした本はないけどね。」
男「うん。」
女「もう少し待っててね。おいしいの煎れるから。」

 男、本棚から「人体解剖学入門」と書かれたやけにでかくて重い本を取り出して、パラパラと眺める。
 女の子、コーヒーを持って来る。

男「ねえ、何でこんなのがあんの?」
女「秘密。」
 (女、楽しそうに笑う。)
男「ふうん、ま、いいけど。」
女「ね、コーヒー飲もう。」

 女、男の前にコーヒーカップを置き、自分の前にも置く。

男「あ、ども。いただきます。」
女「どうぞ。あ、灰皿だしてなかったね。」

 女、やけにカワイイだけの、あまり実用性のない灰皿を持ってきて男の前に置く。

男「ありがとう。女の子の部屋だから、禁煙かと思ってた。」
女「ううん、いいよ。じゃ、いままで我慢してたの?」
男「別に我慢って程じゃないけど。」
女「気つかってくれたんだ。ありがと。」
 (照れる男に対して、女の子はあくまでもニコヤカ。)

 男、煙草に火をつけて、ちょっと一服。煙草を置いて、コーヒーを飲む。

男「旨い。本当、おいしいね、このコーヒー。」
女「おいしいでしょ。」
男「ちゃんと豆とか挽くの?」
女「うん、コーヒー好きだから。」
男「本当うまいよ、そこらで六百円とかとるヤツよりずーっといい。」
女「それは褒めすぎじゃない?でもよかった、気に入ってもらえて。まだあるから、どんどん飲んでね。」
男「うん、ありがたく、頂きます。」
女「でもアレね。みんな、ちょっと会わない内に随分変わっちゃうもんねえ。女の子なんて結構みんな綺麗になって女っぽくなってんだもん。」
男「うん。橋本さんもね。」
女「へへ、なんか無理矢理言わせちゃったみたいね。」
男「いや、そんなことないよ。」
女「へへ、有難う。本気にしてしまおう。」

 両者ともになんとなく照れる。男、照れ隠しに煙草をすって天井に向かって煙を吐く。と、蛍光燈が一本切れているのに気が付く。

男「あれ、蛍光燈が切れてる。」
女「うん、私、蛍光燈替えるの苦手でさ、もう、ずーっと切れっぱなしなの。替えよう替えようって思ってるんだけど。」
男「替えはあるの?」
女「うん、買ってはあるんだ。」
男「じゃ、替えてあげるよ。」
女「えー、いいの?あれって結構大変よ。」
男「別に大した事ないって。コーヒーのお礼。」
女「助かる。じゃお願いしまーす。」

 女、蛍光燈の替えを持ってくる。

男「テーブルに乗っちゃっていい?」
女「あ、ちょっと待って。テーブルの上片付けるから。」

 女、テーブルの上のコーヒーカップ等をよける。男、勇んでテーブルに上がる。

女「大丈夫?懐中電灯持ってこようか?」
男「うん、頼む。」

 女が下から懐中電灯で照らす中、男は中々手際良く蛍光燈を替える。

男「これをこうやってから、ここに付ければ楽に出来るよ。」
女「ふーん(感心して見ている)。」
男「はい出来た。」

 男、テーブルから下りて、蛍光燈を点ける。女の子、拍手をする。

女「わあ、凄く明るくなった。ありがとう。やっぱり男の子よねえ。」
男「(照れて)いやー、そんな大した事じゃないし…。」
女「ううん、凄い。ま、コーヒーでもどうぞ。」

 女、テーブルを拭いている。

男「ごめんね、汚い足でテーブルに上がっちゃって。」
女「ううん、いいの。さ、コーヒー飲も。」
男「うん、ありがとう。」

 二人、再び座ってコーヒーを飲む。男、テーブルの上の親指の痕に気が付いて、さりげなくそれを拭きながら、煙草に火を点ける。

女「ねえ、私にもタバコくれる?」
男「あ、いいよ。煙草すうんだ?」
女「うん、最近やめてたんだけどね。人がおいしそうにすってるとねえ。」

 男、煙草を取り出して女に渡す。女、受け取った煙草を掌に乗せると、手首をポンと叩いて煙草を飛ばして口で見事にキャッチする。ポカンとしている男。女はにこやかに火を点けて、おいしそうに煙草をすう。

女「あ、そうだ。ちょっと待っててね。」

 女、台所の方へ。冷蔵庫を開けて中を覗き込む。
 男、テーブルの上に視線を戻すと、彼女の吸いかけのタバコと、コーヒーカップが目につく。両方とも、微かに口紅のあとがついている。思わず手を伸ばしたいような気持ちにかられ、自分のコーヒーから手を離すと、台所から女が戻ってくる。小皿にチーズが乗っている。コーヒーのおかわりを男に注ぐ。

女「おかわり、どうぞ。」
男「あ、有難う。それチーズ?」
女「うん。私、コーヒー飲みながらチーズつまむの好きなの。結構合うんだよ、これ。よかったら榎戸君もつまんで。」
男「うん。どうも。でも、いいなあ。」
女「何が?」
男「女の子の部屋だなあ、と思って。」
女「そお?」
男「うん、綺麗だしさ、どっか違うんだよね。男の一人暮らしとはさ。」
女「どういうとこ?」
男「何か、華があるっていうか…。」
女「でも、私、掃除とか下手だし、ちらかしてるし、あんまり色気ないでしょ、この部屋。」
男「ううん。凄く綺麗にしてるよ。掃除も行き届いててさ。俺の部屋なんか、ひどいからさ。」
女「そりゃ、男の人のレベルでいけば綺麗にしてるわよ。でも女の子の部屋としたら、あんまり綺麗な方じゃないんじゃないかな。」
男「ふーん、そんなもんかなあ。」
女「ま、綺麗って思ってくれるのは、嬉しいけどね。」

 女、楽しそうに微笑む。

 男、つい沈黙を恐れてコーヒーをグビグビ飲む。女は子供のような笑顔で、そんな男の様子を楽しそうに見ている。
 と、男の表情がちょっと曇り、腰をモゾモゾしたりする。

女「どうかしたの?」
男「あの…悪いけど、ちょっとお手洗いかしてくれる?」
女「ん、どうぞ。」
男「ごめん」

 と言いつつ立ち上がる。

  トイレ(ユニット・バス)

 用を足し終えた男。風呂のへりに置いてあった、少し水に濡れたらしくガワガワになった文庫本を見付け、手にとる。本は有吉小和子の芝桜(下)。男、ふうん、といった表情で見て、何か可愛いとか思う。手を洗おうと振り返って洗面台をみるとシャワーキャップがある。男は物珍し気に手に取って、思わずかぶってしまう。鏡に向かってポーズをとったりする。莫迦やってんな、といった感じでシャワーキャップを戻し手を洗っていると、ピンク色の可愛い歯ブラシが目にとまる。手を拭いていても、何となく歯ブラシが気になって、イカンと思いつつ、つい手を伸ばして掴んでしまう。ああ、これが彼女が使っている歯ブラシかと思うと、愛しくなってつい頬ずりしてしまう。

男「うーん。」

 で、ついにその歯ブラシを、パクッとくわえてしまう。

  女の子の部屋

 女、コーヒーカップを片付けている。

女「コーヒーまだ飲む?」
男「いいよ、これで。」
女「あ、イヤだ、忘れてた。洗面所片付けてなかったんだ。どーしよう。ちらかってたでしょ?」
男「綺麗だったよ。本があったけどね。有吉小和子の。」
女「えー、恥ずかしい。あれお風呂で読んでんの。何か本でも読んでないと寂しいくって。」
男「でも、いいね、それ。今度俺もやってみよう。」
女「やっぱり気になるなー。」

 女、一瞬、洗面所に姿を消す。男、可愛いな、と思って笑っている。と、間もなく、さっきのピンクの歯ブラシを持って出てくる。

女「ほらー、こんなのまで出しっぱなしにしてた。ゴメンネ。ちゃんとしてないで。」
男「(内心動揺しながら)いや、いいけど。その歯ブラシがどうかしたの?」

 男、平静を装って、コーヒーの最後の一口を口に運ぶ。

女「これ、トイレのへりとかを磨くのに使ってるの。」

 男、地獄のようにムセる。駆けよる女の子。

女「大丈夫?」

 男、ムセ続ける。画面ゆっくりフェード・アウト。完全に暗くなるちょっと前位に、女の子の声。

女「あー、靴下破れてる。」

 黒画面に男のナレーション。

「今でも歯を磨くたびに彼女の部屋を思い出します。」

                    おわり


1997.4.27
 考えてみたら、私は「ブスだけど性格がいい」という女の子に会ったことがない。「美人で性格が悪い」も「美人で性格がいい」も知ってるけど。ということで、「ブスは性格が悪い」というのは、当たりでは?と思っている。ついでに、「ブスだけど頭がいい」という人も知らない。頭が良かったら、ブスをブスのままで放っておくことはないから。もちろん「美人だけど頭が悪い」はいる。でも、「頭が良ければ美人になる」というのは正解だ。ということで、「ブスは頭が悪くて、性格も悪い」ということになる。ついでに「ブスは騒々しい」というのも正解にしたいところだけど、論証できないから保留。なお、ここで言うブスは、男性女性の双方を指している。


1997.4.28
 嫌いになったのではない。でも、そのことは、僕にとって、そいつとの縁を切るのに充分な出来事だった。とにかく、そいつと喋っていることがイヤだった。そいつが、自分のことは分かってるから、いいじゃない、と、開き直っているのもイヤだった。多分、僕は本当にそいつのことが好きだったんだと思う。だから、僕は全力で意地悪をして、「これで縁が切れたな」と思えるまで、攻撃して、そして、ヤな気持ちになりながら、縁を切る、という作業が、結構面白いことに気が付く。放っておけば、いくらでも一人になることが出来る。振る、とか、振られる、とかって、何て中途半端な関係性だろう、と、思う。何て楽なことだろう、と、思う。その分、面倒で、面白くない。切るのはハードで、徹底していて、その分楽ちんで面白い。そう考えると、ジャックスのラブ・ゼネレーションという歌は、何て名曲なんだろう、と思う。本当に、言葉の奥には愛がいっぱいあるんだ。でも、俺って凄いヤな奴ではあるな。愛は、そういうイヤな奴の隠れ蓑として、最大限の効力を発揮するという、かなり卑怯な技だ。


1997.4.29
 中谷美紀は、矢野顕子とデヴィッド・シルヴィアンの間に生まれた子供で、だから坂本龍一が面倒を見ているのだ、という噂がある。しかし、一方で、かしぶち哲郎との間の子供だという意見もあり、正確なところは分からない。分かったところで、別にどうでもいいのだが。


1997.4.30
 最近、下着ドロボーの中に、下着を盗んでおいて、自分のパンツを代わりに置いてくるというのがいるらしい。そのパンツが、嫌がらせのつもりなのか、お礼のつもりなのか、それは今、私を悩ませている最大の謎だ。


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